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レッサーパンダ飼育マニュアル作成ページ

食事:

野生のレッサーパンダの食事は95%以上が笹である。

笹を食べることや毛繕いに多くの時間を費やすので、飼育場には必ず笹がある状態にすること。

また、笹には歯磨き効果、整腸作用があり、レッサーパンダの健康を保つために不可欠なものである。

糖質の高い果物や野菜は虫歯や肥満の原因になるため、与えすぎないようにし、体重を念頭に量を調整すること。

また、体調不良の時には食べないものも出てくることや薬を与えるときには食事に混ぜることがあるので、

どんなものを好んで食べるかをあらかじめ調査し、特定の食べ物に偏らせないようにしておくこと。

水:

​常に新鮮で清潔な水を与えること。水桶は彼らがひっくり返さないような構造のものが望ましい。また、水の清潔さを保つため、

雨のあたらないところ、砂や土、ほこりが入りにくい場所に設置すること。

飼育場:

レッサーパンダは決して跳躍力は高くないが登ることに長けた動物である。その為飼育場の外壁や柵は脱走防止の対策が不可欠である。

新規で導入した個体、好奇心の強い個体、若い個体には特に行動に注意を払うこと。

脱走された場合、周囲に高い木があれば確保は非常に困難になる。

日本ではめったに見られないが、レッサーパンダは泳ぐこともできるため、水のモートによるしきいは推薦されない。

飼育場の中には4mまで登ることができる大きな木、もしくは登ることができる渡木のセットなどを設置すること。

あまりに高く登れてしまうものは落下時の危険があるため、侵入阻止できるようにしておくこと。

その下にウッドチップなどの落下時の衝撃を抑えることのできる素材を置いたり、やわらかい土を設置しておくことが望ましい。

雨や雪、風などの悪天候、直射日光を遮断できるある程度の広さの場所を確保しておくこと。

草食よりの雑食なので、飼育場内の草に食べられるものを何種か用意しておくこと。

飼育場内に有毒な植物類が発生していないか必ず確認すること。

筋力をつけさせるためにある程度の勾配を意図的に作っておくとよい。

また、高齢の個体や体調不良の個体は登攀能力がおちてくることがあるため、必要に応じて補助的な通路を確保したり、

渡木に滑り止めを設置するなどして、飼育場の使用に障害が起きていないかを観察すること。

同居している個体がいる場合、通路が限られているともう一方の通行が阻害されることもあるため、

すれ違いができるように広めにするか、または複数のルートを設置しておくこと。

餌と水の分配に不公平が生まれている可能性もあるため、必要に応じて食事の時は別々に与えるなどして、どの個体がどれくらい食事や水を摂取しているかは把握できる状態にしておくこと。

 

レッサーパンダは腸が長くなく、食べたものは2~6時間後に排出される。屋根の上や木の上にもフンをする。フンが放置されていると不衛生になったり、食糞を引き起こす可能性もあるため、すくなくとも1日1回は掃除をして、確認しにくい場所にもフンが残っていないかどうか確認すること。

レッサーパンダは1日の半分は寝ているため、彼らの睡眠が阻害されないようにすること。

大きな音をたてたり、いたずらされることにより、飼育場に出るのをいやがったり、特定の場所で動かなくなることもあるため、

来園客に注意を促す掲示などを設けること。

レッサーパンダは暑さに特に弱いため、特に夏の飼育場の温度管理には注意を払うこと。

寝室内は10~18℃に保ち、24℃を超える場合は寝室への出入りを自由にしておくか、または屋外展示を中止すること。

気温が0℃を下回る場合は出入り自由にしておくこと。

積雪によって地面の高さが上がり、移動範囲が想定できない場合は展示を中止すること。

掲示物:

レッサーパンダは絶滅危惧種であり、その旨が分かる掲示を設けること。また季節によって展示が困難になる動物であるため、

展示の難しい季節でも彼らの特徴や姿が理解できる掲示物を用意すること。

行動:

レッサーパンダは樹上生活をする動物であり、鋭い爪によって木や壁を登り高いところも探索する。

気になったものにはマーキングをする。周囲を確認するのに二本足で立ちあがることもある。

枝や食べ物を器用な手でつかむことができる。これらの行動が自然な形で来園者が見ることができるような工夫をすること。

体の特徴:体は深い毛で覆われ、ある程度の寒さに耐えられる。耳の周囲は白い毛で覆われ、耳の根元から長い毛が生えている。顔の外周部、背中は茶色、顔の中央部と眉にあたる場所は白、体の胸側の方と手足は黒、手のひら、足裏は白い毛で覆われている。尻尾は茶色と黒、もしくは白の縞模様で、しっぽの先端は黒い。爪は鋭く、高いところに上るのに役立っている。

これらの特徴がみられるように飼育場内を工夫すること。

トレーニング:後述する異常行動・状態を解消するために個体に触れても抵抗されないように信頼関係を築けるようにしておくこと。食事の時間を利用して、彼らの好物を与え食べている間は体に触れても逃げたり抵抗されないように訓練する。スムーズな帰室や身体測定を想定し、特定の場所まで誘導できるようにする。途中で個体が嫌がったり逃げたりする場合は無理せず時間を改め、飼育員に抵抗感を持たせないようにすること。採血、投薬、エコー検査などを想定し、徐々にものを強くあてても抵抗されないようにする。

物などを用いて脅威を与えることで放飼場に出したり帰室を促すことは、かえって動物の誘導を阻害する可能性があり、接触が困難になり、診察や投薬などが困難になるため行わないこと。

異常行動や状態:基本的に2時間に1度は巡回し、以下の症状がみられた場合は速やかに獣医と相談し対処にあたること。

・常同行動:同じ場所を探索するでもなく長時間にわたり行ったり来たりを繰り返す、壁際でのけぞりながらUターンする、一定の場所で体を左右に振りながらステップをする、柵を噛み続けるなどがこの症状にあたる。原因は外部からのストレス、何らかの不安、飼育場内に興味が持てず退屈しているなどが考えられる。同じ場所を繰り返して歩いているので、飼育場には獣道ができている。これを解消するために、寝室への扉を出入り自由にし、個体に逃げられる場所を確保しておく、外から視線を遮る場所を飼育場内につくる、飼育場内に遊具(大きめの枝や落ち葉のプールなどでも)を設置する、フィーダーなどを用意するか、ランダムに細切れの食べ物を配置し、時間をかけて食事ができるようにすることで退屈になる時間を減らす。また、餌を与える飼育員には興味をもつため、定期的に姿を見せることも有効である。なお、この症状は定着すると慢性化し、将来にわたって発症・定着してしまう可能性があるため、早い段階で認識し、対処すること。

・脱毛:主に尻尾、体の下半身の脱毛が顕著である。原因としては屋外・屋内飼育場が不潔になり、ダニなどの虫や菌によってかゆみが発生している、飼育場内で退屈していたり、ストレスによって過剰な毛繕いや毛を抜く行動がみられる。これを解消するためには常同行動の解消と同様に退屈な時間をできる限り減らす、飼育場内を除虫・除菌し、清潔に保つために徹底した掃除を行う、フィラリアのワクチンを接種させる、真菌対策の投薬をする、ブラッシングを行うことなどが有効である。換毛期にはうまく換毛できない個体もいるので、ブラッシングで補助を行うこと。同居個体がいる場合、他の個体による過剰な毛繕いで脱毛を引き起こす可能性もあるため、確認できた場合は一時的に同居を解消する。

・尿漏れ:水濡れの原因となるものが飼育場にないのにおしりの付近が濡れている場合、尿漏れが疑われる。主に投薬で対処する。またおしりの付近が不潔になりやすいので毛を短く切ったり、清潔なタオルで拭く。

・顔の腫れ:顔の一部、とくに鼻や頬の周辺が腫れている。主に甘いものを好むレッサーパンダは口内炎や虫歯になりやすい。腫れを確認した場合は口の状態を確認し、口内炎や虫歯になっていないかを確認すること。放置しておくと腫れがひどくなり、摂食に影響がでてストレスややせの原因になる。最近の研究の進歩により、虫歯や口内炎は減少しているが、それまではそれが原因で短命になるレッサーパンダも多くいた。速やかな治療、抜歯、投薬が必要である。虫歯や口内炎を防ぐためには口に粘着しやすいイモやバナナ、質の悪いペレットなどが原因になりやすいため、そういったものを避ける、糖質の高い果物や野菜を与えすぎないようにする、定期的な口内検査(餌を手で与えるときに上を向かせて食べさせると確認しやすい)を行う。

・巻き爪:主に高齢の個体に見られる。歩く量が減り、爪が自然に削られないようになると発生する可能性がある。放置しておくと歩行が困難になり、さらなる運動不足と巻き爪の原因になるので早めに対処すること。

​・白内障:瞳孔内に白濁が見られる、主に高齢の個体に見られるが、若くても発症することもある。視力が落ち、周囲のものへの認識が難しくなる。対処は点眼によって進行を遅らせる。飼育場の配置を見直し、安全に行動できるようにする。落下防止または緩衝材を配置する。

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